ADVANCED MEDICAL CARE先進的医療

腎泌尿器科学の先進的医療を紹介します

ADVANCED
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01

日本初世界へ hinotori

概要

2013年、本邦発の手術支援ロボットの開発を開始すべく株式会社メディカロイドが設立されました。2015年に日向らはこの国産手術支援ロボットの開発チームに加わり、これ以降メディカロイド社と共同でその開発を推進してきました。幾度かの試作機の作成の後に、2019年からは最終型試作機による大型動物を用いた実際の手術実験を行い、制御プログラムの改良に合わせ安全性を繰り返し確認してきました。2020年からは前臨床試験の一部として御献体を用いた腎部分切除術、根治的前立腺全摘除術、骨盤内リンパ節郭清術を実施し、ヒトにおける安全性と有用性を検証してきました。これらの前臨床試験を経た後に、国産手術支援ロボットhinotoriTMが本邦において医療機器として承認されました。

特 徴

hinotoriTMの特徴は、8自由度を有する関節によってアーム同士やアームと助手との干渉を低減し、より円滑な手術操作が可能となることや、open platformを採用したことによって種々のデバイスや内視鏡システムとの互換性を確保するよう設計されていること、そして本邦の現場で働く臨床医の意見を開発に取り入れやすい開発体制となっていることが挙げられます。2022年現在、泌尿器科においてhinotoriで出来る術式はdaVinciと全く同じです。

対象疾患

hinotoriTMを用いたロボット支援手術は2022年時点で泌尿器科領域においてのみ保険適用となっています。対象となる術式は前立腺がんに対するロボット支援根治的前立腺全摘除術、腎がんに対する根治的腎摘除術および腎部分切除術、膀胱がんに対する根治的膀胱全摘除術、腎盂・尿管がんに対する根治的腎尿管全摘除術、副腎腫瘍に対する副腎摘出術、腎盂尿管移行部狭窄症に対する腎盂形成術、女性骨盤内臓器脱に対する仙骨腟固定術です。

実績

広島大学泌尿器科ではもともとdaVinci Xi、daVinci Siの2台体制でロボット支援手術を実施していましたが、2022年1月に3台目の手術支援ロボットとしてhinotoriを導入し、チームとしてのトレーニングの後に2022年3月には前立腺癌に対するロボット支援根治的前立腺全摘除術を開始しました。2022年4月には世界初となる腎がんに対するロボット支援根治的腎摘除術を開始し、2022年5月にロボット支援腎部分切除術も開始しております。さらに、2022年6月には世界で初となる膀胱がんに対するロボット支援根治的膀胱全摘除術+完全体腔内(ICUD)回腸導管造設術を開始し、同2022年6月にはこれまた世界初となる副腎腫瘍に対するロボット支援副腎摘出術を開始、2022年8月には腎盂・尿管がんに対するロボット支援根治的腎尿管全摘除術を世界に先駆けて開始しています。このように、広島大学泌尿器科では、泌尿器科の腫瘍に対するメジャーな手術はすべてhinotoriを用いて行う事が可能です。さらに、良性疾患である腎盂尿管移行部狭窄症に対する腎盂形成術や女性骨盤内臓器脱に対する仙骨腟固定術などの術式にhinotoriを適応していく予定です。

hinotoriTMへの今後の期待と展望

hinotoriTMの開発に関しては、今後は他科領域を含むさらに多様な術式に対応できるよう鉗子類を拡充させる必要があり、種々の鉗子の開発が進行中です。さらに、術中蛍光観察機能の付加、手術台との連携、術中ナビゲーション機能、遠隔手術指導、術式のAI解析などの手術支援機能についても研究中です。手術支援ロボットは約20年間に渡り先駆者であるdaVinci® (intuitive surgical社)の独占状態が続いていましたが、近年になりhinotoriTMのほかにも種々の手術支援ロボットが世界各国で開発されています。このことにより、今後は健全な競争状態が維持されることによりさらなる機能の発展と医療コストの削減が期待されます。そして、上述の研究開発を進めることにより、術式の深化発展のみならず医療システムに革新をもたらすことも期待されます。さらに今後、この国産手術支援ロボットが普及すれば医療機器の輸入超過の軽減や我が国の経済発展に貢献することも可能となり、国民のさらなる健康増進や医療の効率化が期待されます。

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02

より精密で正確な診断を MRI-TRUS fusion biopsy

概要

前立腺生検は前立腺癌の確定診断に必要な検査です。
従来の前立腺生検は前立腺を万遍なく穿刺する系統的生検が一般的でした。しかしながらこの生検方法では、MRIで癌が疑われている病変を正確に穿刺することは困難です。そこで当院では、2015年6月からKOELIS社製の超音波画像診断装置TRINITYを導入し、MRI/TRUS fusion biopsyを行ってきました。この技術により広島大学病院での前立腺癌の検出率は46.6%から63.5%まで上昇し、より正確な病理学的評価が可能となりました。

特徴

MRI/TRUS fusion biopsyはMRIで指摘された疑い病変を正確に生検することができます。この技術により以下のメリットがあります。

  • MRI/TRUS fusion biopsyは癌のより正確な評価が可能となります。癌の悪性度や前立腺内での場所を正確に評価できるため、それぞれの患者さまにあったオーダーメイドな手術を提供し、制癌性の向上や機能温存に繋がります。また、将来的に前立腺がんの局所療法への応用も期待されます。
  • MRI/TRUS fusion biopsyは癌の偽陰性を減らすことは明らかであり、不必要な再生検を減少させ患者さまの負担を低減することができます。また、不必要な前立腺生検を減らすことは医療費の低減にも繋がりは大きなメリットがあります。

実績

本邦において広島大学泌尿器科は4施設目のTRINITY導入施設であり、これまでに1100例のMRI/TRUS fusion biopsyを施行しています。各学会でのレクチャー、ハンズオンセミナーを数多く行っており、当教室で技術を学んだ医師が関連施設で活躍しています。
現在、このTRINITYによるMRI/TRUS fusion biopsyを積極的に行っている施設を対象に当教室が主体となって本邦における成績を取りまとめており近いうちに発表予定です。

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03

新たな治療アプローチ がんゲノム医療

概要

2019年にがん遺伝子パネル検査として「OncoGuideTM NCCオンコパネルシステム」と「FoundationOne® CDxがんゲノムプロファイル」が保険収載され,保険診療で検査を実施できるようになりました。また,2021年8月より「FoundationOne® Liquid CDx がんゲノムプロファイル」が保険適用となりました。今後もがん遺伝子パネル検査の実施数が増えていくことが予想されています。

広島大学泌尿器科では当院遺伝子診療科の協力も得つつ、必要な患者さんに、より適切に遺伝カウンセリングや遺伝学的検査が提供できるようつとめております。

遺伝子診療科はこちら

特徴

がん遺伝子パネル検査とがんゲノム医療

がんは生活習慣や環境要因など遺伝子の変化で起こる病気です。また、生まれもった遺伝子の違いが原因で、がんになりやすい体質を持っている場合もあります。がん細胞(または血液)中の遺伝子の変化をもとに患者さん一人ひとりのがんの性質を知り、適切な治療を選択していくのが、がんゲノム医療です。がん遺伝子パネル検査では数百個の遺伝子の変化を一度に調べ、結果を総合的に判断して適切な治療法を探ります。

しかし、遺伝子変異があっても、使用できる薬がない場合もあり、がん遺伝子パネル検査を受けて、自分に合う薬の使用(臨床試験を含む)に結び付く人は、全体の1割程度と言われています。

広島大学病院は2019年9月よりがんゲノム医療拠点病院に指定されました

泌尿器科では、これまでにがんゲノム医療連携病院である県立広島病院・JA広島総合病院・呉医療センター・中国がんセンター・広島市立北部医療センター安佐市民病院・東広島医療センター・JA尾道総合病院と連携し、がんゲノム医療を提供しています。

対象疾患

保険診療の適応の対象となる患者さんは、下記の通りです。
(ご自身が対象となるかどうかは、現在の主治医とご相談ください。)

  • 標準的な治療法が確立されていない希少がんや原発不明がんの方
  • 標準治療が終了となった、あるいは終了が見込まれる固形がんの方
  • 全身状態から、がん遺伝子パネル検査施行後に、化学療法の適応となる可能性が高いと主治医が判断した方

なお保険診療とは別に、自費(保険外診療)のがん遺伝子パネル検査も行っております。

実績

当科は泌尿器領域のがんゲノム検査を積極的に行っています

当院における2021年度のがん遺伝子パネル検査のエキスパートパネルでの検討症例数は約300例でした。

広島大学泌尿器科では、5人のがんゲノム担当医を配置し、2019年1月から2021年10月までに57例の患者さんに対して遺伝子パネル検査を行ってきました。(前立腺癌、腎癌、尿路上皮癌、精巣腫瘍、副腎癌、原発不明癌、肉腫)ただし、自分に合う薬の使用(臨床試験を含む)に結び付く人は、全体の1割程度と限定的です。

BRCA遺伝子変異を伴う転移性去勢抵抗性前立腺癌にオラパリブが保険適応となりました

転移性去勢抵抗性前立腺がんに対してオラパリブ(商品名:リムパーザ®)という薬剤が適用拡大されましたが、がんゲノム検査の結果で治療に到達された患者さまがこれまで4例おられます。

受診を希望される場合は現在治療を受けている医療機関からの紹介が必要となりますので担当医に相談してください。

当科のゲノム担当医

  • 林哲太郎
  • 池田健一郎
  • 小畠浩平
  • 福島貴郁
  • 田坂亮

詳しく知りたい方はこちら

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04

ロボット手術の先駆者 da Vinci

da Vinciは米国インテュイティブサージカル社が開発した手術支援ロボットです。患者さんの身体的な負担が少ない腹腔鏡下手術の特長を生かしつつ、ロボットの支援によって、より精密な手術操作が可能になりました。

da Vinciを使うメリットとして、内視鏡手術と同様に比較的小さな創で手術を行うことができます。また、より高い技術を要する縫合や切除などが確実にできるようになり、術者の負担も軽減することが可能となります。つまり患者さんにとっても術者にとっても負担が少ない低侵襲な手術が可能となっています。

特長

①体の負担が少ない

数カ所の小さな切開部から手術を行うため、傷が小さく、出血も抑えられ、手術後の回復が早く、患者様の負担が軽減されます。入院期間もより短期となってきています。

②鮮明な3D画像

3次元立体画像を見ながら手術ができます。奥行きを感じて操作できるため、より正確かつ安全な手術が可能です。

③鉗子の多関節機能

鉗子などを取り付けるアームの関節の可動域は大きく、開腹手術や腹腔鏡手術よりも自由で精密な動きが可能です。その再現精度は極めて高く、スムーズであり、患部に直接触れているような感覚で手術することができます。

④手ぶれ防止機能

術者の手先の震えが鉗子に伝わらないよう手ぶれを制御する機能が搭載されています。細い血管の縫合や神経の剥離など、高い集中力を必要とする精緻な作業でも、正確に操作をすることができます。

対象疾患

2022年度より泌尿器科領域では従来施行していた腹腔鏡手術で認められているほとんどの手術が保険適応となっています。当院でも可能な限りロボット手術を選択しています。ロボット支援下前立腺全摘除術は2010年から、ロボット支援下腎部分切除術、ロボット支援下膀胱全摘除術は2013年から開始しています。対象疾患の詳細は以下の通りです。

  1. 前立腺がんに対するロボット支援下前立腺全摘除術
  2. 腎細胞がんに対するロボット支援下腎部分切除術
  3. 腎細胞がんに対するロボット支援下根治的腎摘除術
  4. 腎盂尿管がんに対するロボット支援下腎尿管全摘除術
  5. 膀胱がんに対するロボット支援下膀胱全摘除術
  6. 副腎腫瘍に対するロボット支援下副腎摘除術
  7. 腎盂尿管移行部狭窄症に対するロボット支援下腎盂形成術
  8. 骨盤臓器脱に対するロボット支援下仙骨膣固定術

実績

広島大学病院では2010年より中国四国地方で初めてdaVinciを用いたロボット手術を開始し、daVinciSを経て、現在はda Vinci Si、da Vinci Xiの2台を運用しています。広島大学病院では2022年6月までにロボット支援下前立腺全摘除術949例、ロボット支援下腎部分切除術227例、ロボット支援下膀胱全摘除術43例、ロボット支援下根治的腎摘除術2例、ロボット支援下腎尿管全摘除術13例、ロボット支援下副腎摘除術2例施行ししております。

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