Robotic surgery STORY

広島大学腎泌尿器科学ロボット手術ストーリー

広大腎泌尿器科 × ロボット手術

広島大学大学院医系科学研究科腎泌尿器科学では、
手術支援ロボットの
da Vinciとhinotoriを駆使して、
患者さんの負担を減らす精緻な手術を提供している。
hinotoriの開発に携わり、
今は当研究室を
牽引する立場となった日向信之教授に話を聞き、
自らの来歴も含めてロボット手術に対する
思いを語ってもらった。

STORY 01 「若いうちからの実践」に
こだわり泌尿器科へ

まずは、先生が医師を志したきっかけを教えてください。

私は、サッカーやピアノなどの習い事をしたり、水泳で区の大会に出場したりする程度の、ごく普通の子ども時代を送りました。しかし、中学生になって先輩の影響でエレキギターを始め、音楽にのめり込んでいきました。仲間とロックバンドを結成し、社会人に至るまで続く趣味となっています。
医学の道を志したのは、泌尿器科医であった親戚の影響もあったように思います。医学部で学ぶうちに「自身の手で患者さんを治す」ことのやりがいに魅せられていきました。特に腹部臓器の手術スキルを高めたいと考えたのですが、当時の消化器外科はあまりに大所帯で、手術を任せてもらうまでにだいぶ時間がかかりそうでした。そこで、若いうちから実践を重ねられる泌尿器科の門を叩きました。泌尿器科は伝統的に若いうちから手術を執刀し実践を積み重ねられる環境であり、その伝統は、現在も引き継がれているように思います。
学部卒業後は守殿貞夫先生が主宰される神戸大学の腎泌尿器科学教室に入局。翌年には同大学の大学院医学研究科に進み、「和を以て貴しと為す」をモットーに、チーム医療や医師としてのあり方を学びました。山中望先生、武中篤先生、藤澤正人先生などの師匠と仰ぐべき素晴らしい先生方から直接ご指導いただき、そうした経験が今もなお私の財産となっています。

で山中望先生に泌尿器外科の基礎をたたき込んでいただきました。ほかにも師匠と仰ぐべき素晴らしい先生方から直接ご指導いただき、そうした経験が今もなお私の財産となっています。

STORY 02 手術支援ロボットが
引き起こした革命

先生の医師としてのターニングポイントはどこにありますか。

最大のターニングポイントとなった出来事は、手術支援ロボットとの出合いです。米国でのda Vinci(ダヴィンチ)の開発途上、日本にもさまざまな情報が入ってきたのですが、低侵襲で手術時の出血量が少ないこと、3Dで映し出される術野が鮮明なことがまず大きな驚きで、それゆえに解剖学的にも新たな知見が次々と明らかになっていきました。

私自身がロボット手術を目の当たりにしたのは2010年、鳥取大学医学部器官制御外科学講座腎泌尿器学分野に勤務していたときです。同大学にda Vinciが導入されて1例目の手術に立ち会う機会に恵まれ、さらには韓国の延世大学への短期留学し、当時アジアにおけるロボット手術の権威といえるKoon Ho Rha先生 の下で、開腹手術とはまた違った、ロボットの3本のアームを操るための独特で細やかな手先の動かし方を学びました。
2012年以降は自分でも次々とロボット手術を行うようになり、そのメリットをあらためて実感しました。開腹手術では直接臓器に触れ、思い通りに自分の手を動かすことができるものの、どうしても侵襲が大きくなりがちです。必然的に出血量が増えるため、術野が不鮮明になりやすいという課題もありました。一方、侵襲や出血量を抑えやすい腹腔鏡手術は一つのイノベーションですが、鉗子の動かしやすさは手に及びません。こうした課題をクリアし、両者の良い点を併せ持ったのがロボット手術であり、まさに革命的技術だといえるでしょう。

STORY 03 「神の手」を実現する
2種のロボット

現在、広島大学で導入している手術支援ロボットについて教えてください。

2010年に中国四国地方で初めてda Vinciを導入して以降、広島大学では積極的にロボット手術を実施してきました。da Vinciを使って精緻な手術を行えば、患者さんの負担と合併症のリスクを抑えることができます。アームの鉗子は手ぶれ補正機能付きであり、まさに「神の手」のような器用さが手に入るわけです。
広島大学病院では、このda Vinci2台に加え、手術支援ロボットシステムhinotori(ヒノトリ)を加え、ロボット3台体制で手術を行っています。株式会社メディカロイドが開発したhinotoriは、2020年に国産初の手術支援ロボットとして誕生しました。当時、神戸大学に在籍していた私も開発チームに加わり、「工業機器のプロ」と「手術のプロ」同士がアイデアを出し合い、約5年の歳月をかけて生み出した自信作です。広島大学は2022年3月に私が執刀医として前立腺がん摘出術を手がけたことで、hinotoriによるロボット手術を実施した国内5番目の施設となりました。今後は使用可能な鉗子を増やすなど機能拡張し、さらに遠隔操作手術などで過疎地の医療にも役立てたいと考えています。

STORY 04 「ロボット手術といえば
広島大学」と言われたい

今後のロボット手術の展望をどのように描いていますか。

当科では、前立腺全摘、膀胱全摘、腎臓摘出、腎臓部分切除、腎尿管全摘といった腎泌尿器科のメジャーサージェリーについては、ほぼ100%をロボット手術で行っています。これもda Vinciとhinotoriを擁する充実した環境があってこそ。患者さんの負担を軽減しながらより良い治療ができることには、かけがえのない価値があるはずです。
今後は、日本はもちろん世界中を手術支援ロボットが席巻していくと思います。そうした「ロボット手術全盛期」の到来を見据え、若手の育成に力を入れながら、「ロボット手術といえば広島大学」と想起していただけるほどの存在感を発揮していきたいです。

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